働いていて感じることがあるので思考の整理も兼ねて書いておきたいと思う。
多くの会社は、「お客様第一主義」「お客様最優先」を掲げている。
僕自身も、今の職場の会議で「お客様を最優先に考えなさい」といったニュアンスの言葉をよく聞く。中小企業においては特にこの傾向が強い。
果たしてそれは本当に正しいのだろうか?
お客様を大切にするのは当たり前(大前提)だとして、
お客様最優先は本当にそれで良いのだろうか?
常々疑問に感じていたことについて考えてみたい。
顧客第一主義の日本企業
かねてより、多くの職場で「お客様のことを最優先に考えなさい」と言われている。
僕も複数の職場を経験しているが、実はこの言葉を全社的に発信しているのを聞いたのは会計士業界から、税理士業界に移ってからだった。
もともと、外資系の大手監査法人でキャリアをスタートした僕は、ファーストキャリアの職場でトップマネジメントが以下のニュアンスの発言を度々していたことを覚えている。
「我が社は人材が第一。人財を大切にすることが何よりも重要。だから、私たちはあなたを全力でサポートします。」
やはり業界を牽引しているだけのことはあって、良い企業だと思った。
その後、日系の税理士法人に転職するわけだが、そこでトップマネジメントが全社的に発していた内容は、以下のニュアンスの言葉だった。
「我々はお客様があってこそ仕事がある。何よりもお客様ことを最優先に考え、お客様のことを第一に考えて行動しなさい」
僕は直感的に、そして感情的に、こう感じてしまった。
お客様のことを考えるのは仕事として「当たり前」であって、何を今更全社員の前で発言してるんだ?レベルの低い会社だな…。
表現が難しいが、これが「日本流」なのかな、とも感じた出来事だった。
同時に、職場での仕事に対するモチベーションが大きく下がったのは言うまでもない。
この出来事が引き金となったのかは分からないが、僕は「顧客が第一」よりも「従業員が第一」と公言している会社の方がイケていると感じるようになった。
従業員(社員)第一、顧客第二の企業は存在した!?
当たり前に考えても、従業員を大切にする会社の方が働きがいもあって良いはずだ。
でも現実的にそんな会社が存在するのだろうか?
「従業員第一」なんて聞き覚えの良いキャッチフレーズでしかないのか?
そう思って、少し調べてみた。
少し調べただけでも、すぐにそんな会社がたくさんあることがわかった。
特に、外資系の企業にこの傾向が強かった。
具体例を1つ紹介しておこうと思う。
アメリカテキサス州を拠点とする格安航空会社「サウスウエスト航空」の企業理念は、
「お客様第二主義、従業員第一主義」だった。
さすがにコロナウイルスの影響で現在の業績には打撃が大きいようだが、このような企業理念を掲げていても長年好業績を出し続けていた。
やはり従業員の満足度は、顧客満足と業績に直結する。
僕もこういったユニークな企業を応援したくなる。
お客様を最優先にしなさいと言われた社員は疲弊する
自分が経験したことだから身をもって感じるが、「お客様を最優先にしなさい」と経営幹部から言われると、従業員は疲弊する。
現場の上司から言われるのと、経営者から言われるのとでは訳が違う。
この点についても、正直わかっていない経営幹部(社長、役員)が多すぎる。
勘違いしないように補足しておこう。
現場の上司から「もっとお客様を大切にしなさい」と叱られるのは、正しい指導がされていると言って良い。それは、自分自身に「お客様に対する配慮が足りないこと」について指摘を受けているからだ。当然に言われた本人も直すべき点だ。
一方で、「いつでもお客様を第一に考えなさい」と発言する経営幹部は、必ずしも良いリーダーとは言えない。
経営幹部は現場の実情を知らない場合が多い。組織の規模が大きくなれば尚更だ。
さらに人は、立場が偉くなると現場の声を聞かなくなってしまう傾向にあるらしい(もちろん、全員ではないが、少なからずそういった人が存在する)。いわゆる「天狗」だ。
お客様を大切にしないといけないことぐらい殆どのビジネスマンが分かっている。
それを「わざわざ」伝達するというのは、現場からすると何とも信頼されていないと感じるものだ。
これは完全に私見だが、「顧客第一」を掲げる経営者は、外部(顧客、ステークホルダー)に目を配る一方で、内部への気配りが不足している場合が多い。
さらに、そのような発言を度々耳にする法人は、総じて従業員に対する待遇(給与、手当等)が悪い。
従業員を満足させることが、何よりも顧客を満足させる
従業員第一を掲げ、実行することは簡単なことではない。
しかしながら、従業員を満足させられる会社が最も繁栄すると僕は信じている。
これは製造業などには必ずしも当てはまらないかもしれないが、少なくとも、僕が所属しているような業界(会計、税務、コンサル)では、当てはまる。
専門能力と知識・経験を持った人が顧客を対応する仕事は、形ある物を売るのではなく、サービスという無形の商品を売っているから、従業員の満足度がそのまま顧客にも伝染する。
企業が従業員を第一に考え、働きやすい職場を作り、満足のいく働き方を模索することは、結果として顧客サービスの向上につながる。
イキイキと働いている人から物を買う方が当然買う方も気持ちが良いはずだ。
僕自身も今後の仕事人生はおそらく30年以上は続くと思うと、今後も様々な環境を経験し、考え方も変わっているかもしれない。
でも、これだけはしっかりと軸として持っておきたい。
まずは、一緒に働く仲間(内部)を最も大切にする。そして、結果として顧客をもっと満足させる。
企業は案外、外部よりも内部から崩れていくものだ。
灯台下暗しとならないよう、気をつけていきたい。